『ノー・エスケープ 自由への国境』

 不法難民と言うなかれ。生きるために、人類はあらゆる障壁を乗り越えてきた。人類すべて、誰もが移民の末裔なのだ。この米墨国境で、合衆国に密入国しようとする人間たちを容赦なくハントする、この一見まともそうな男もその一人なのだ。彼に一片の正義さえない。

 そんなことは彼にはよく分かっている。ゴタクを並べ立てるが、要は密入国者を始末することにしか自分の存在意義を見い出せないのだ。彼に支配される殺人犬の哀れなこと。

 このメキシコ映画を制作した時点では、まさかこの映画の狂人とは別の次元で狂った男が隣国の大統領になってしまうなどと想像だにしなかったろう。政治とは無縁の純粋なサスペンスムービーなのだが、この映画の主人公と同様に自分と家族の幸福を求めて今も国境を越えていく人間たちの行く末に思いをはせずにはいられない。