◆ アスクル、倉庫大規模火災から学ぶべき教訓  鎮火から10日、初の会見でも出火原因は不明  ◆ 火災のアスクル倉庫、何が間違っていたのか  最先端の物流センターに潜んでいた死角

アスクル、倉庫大規模火災から学ぶべき教訓  鎮火から10日、初の会見でも出火原因は不明

東洋経済オンライン】 03/10

福井 純 :東洋経済 記者

 埼玉県三芳町の物流倉庫が大規模火災に見舞われた事務用品通販大手アスクルは3月9日、都内で記者会見を開いた。

 埼玉県の物流倉庫は地上3階建て、延べ床面積約7万2126?。

202億円を投じて2013年に稼働した最新鋭のセンターで、全部で7つある同社の物流センターの「心臓部」だった。

 火災は2月16日に発生した。

最新鋭の設備ということもあり、当初はほどなく鎮火するとも思われたが、鎮火にこぎつけたのは発生から12日後の2月28日。

東京ドーム1個分にあたる約4万5000?を焼損した。

3月7日に三芳町で近隣住民に対する説明会を実施、それを終えてようやく開いた記者会見だった。

● 焼損は想定よりも軽い?

 大規模火災後初めてなだけに、会見は大きな注目を集めると思われていた。

だが、集まった報道陣は50人ほど。

約200人を収容する会見場にはかなりの空席が目立った。

一方、会見を謝罪から始めた岩田彰一郎社長は終始、緊張した面持ちだった。

 今回の会見でわかってきたのは、主に二つだ。

一つは「東京ドーム1個分の火災」という表現ほどには、埼玉の物流センター(正式名称「アスクルロジパーク首都圏」)が影響を受けていない可能性があることだ。

同センターの資産は帳簿上120億円(土地などを除く)とされ、そのほとんどが使い物にならないと見る向きもあった。

 詳細は消防の調査や保険会社による査定を経ないとわからないが、火災で激しく焼けたのは主に2階と3階部分。

配送車などが出入りし物流センターの土台や躯体(建築物の構造体、基礎部分)を形作る最も重要な1階については、当初想定より影響が少ない可能性が出てきた。

 同社の今2017年5月期の業績予想は売上高3480億円、純利益55億円。

「(火災によって)今期は最終赤字か」との質問に、岩田社長は「倉庫内に立ち入りができておらず業績への影響は未確定」と明言を避けたものの、損失額が鎮火前に想定された「全損」よりは、少なく済む可能性を示唆した(なお、損失は計上後、保険収入で一定部分が相殺される見込み)。

そのうえで、岩田社長は「機関決定ではない」と断りながらも、周辺住民からの励ましの言葉をもらったことなどを明らかにし、同地で物流倉庫を復旧させる意思をにじませた。

● LOHACOの厳しい状況

 一方、個人向け通販のLOHACO(ロハコ)に関しては、今回の火災で大きな痛手を負っていることが改めて明らかになった。

 同社の売上高の大半は法人向け通販であり、2012年にスタートしたLOHACO事業は急速に伸びてはいるもののまだ480億円(見込み)にすぎない。

営業損益はなお「創業赤字状態」だ。

 それでも火災による影響が大きかったのはLOHACO事業だった。

 法人向け通販に占める埼玉物流センターのシェアは9%にすぎず、他の6つの物流センターでカバーすることで、ほぼ通常通り営業を行っている。

 それに対し、LOHACOの埼玉物流センターのシェアは62%に上る。

そのため、約3万点にのぼるLOHACOの独自商品のうち、横浜や大阪の物流センターからの出荷でカバーできるのは約8000に過ぎず、東日本地域ではなお注文できない商品が多くを占めているのが現状だ。

 アスクルでは3〜9月までに3つの比較的小規模な代替の物流センターを構築、横浜センターの法人向け通販物流を一部移管するなどしながら、9月末までにLOHACO物流の完全復活を目指すとした。

だが、その間に顧客が他のネット通販に流れる懸念もある。

 会見では肝心の物流センターの出火原因や、なぜ延焼が防げなかったかについては、なお消防の調査中であることを理由に明らかにされなかった。

 特定はされていないが、今回の火災は、フォークリフトによって廃棄用段ボールをトラックに積み込もうとした際、タイヤが段ボールのうえで空回りして、煙が出たことが出火原因になったともいわれている。

それでもなぜ出火後、防火シャッターやスプリンクラーが結果として機能しなかったのかなど、多くの疑問は残されたままだ。

 今回のアスクルの火災を受けて、総務省消防庁)と国土交通省は、各社の大規模倉庫の防火対策の実態調査を進めている。

延べ床面積5万?以上の倉庫を対象に、全国各地の消防本部などが立ち入り検査。

それを踏まえ、有識者検討会で対策を検討する方向という。

検査対象の倉庫は全国で100以上にのぼる見通しだ。

● ダントツの安全性を目指せ

 こうした調査からも改めてわかるが、倉庫の安全については総務省国土交通省の双方が所管する。

法規でいえば、消防法では消火器や火災報知機などの取り付け、建築基準法によって防火シャッターの設置などをそれぞれ義務付けている。

 二重の規制により安全性が高まるとも思われるが、都市防災などに詳しい北後明彦・神戸大学都市安全研究センター教授は「総合して安全を担保するという視点が不足している」と指摘する。

 こうした消防・建築双方からの視点の重要性は

「戦後1960〜70年代、ビル火災が頻繁に起きたことで指摘され、双方の専門家が会合を重ねるなどして、改善が施されてきた。 だが、2000年に改正建築基準法が施行されたことに加え、地方分権が進んだこともあり、従来に比べ規制が行き届かなくなった側面がある」(同)。

今回の火災事故を踏まえ、今後消防法改正も見込まれるが、より実効性のある防火体制の構築が不可欠だ。

 記者会見で岩田社長は「今回の物流センターの火災は、(今年実質創業20年目を迎えたアスクルとして)大変大きな節目となった。 今後は現場管理を含めチームを再強化し、同時に最新の技術を投入して、次世代の物流網を再構築したい」と語った。

 一定のコストはかかっても、一段高い独自基準を作る――。

アスクルにいま必要なのはこのような気概だろう。

そして効率を追求する余り、安全性が置き去りにされていなかったか。

改めて検証する必要がある。

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

◆ 火災のアスクル倉庫、何が間違っていたのか  最先端の物流センターに潜んでいた死角

東洋経済オンライン】 02/22

福井 純 :東洋経済 記者

 事務用品通販大手アスクルの物流センター「ロジパーク首都圏」(埼玉県・三芳町)の火災は、2月16日の出火から5日を経た21日午後4時現在、なお鎮火していない。

 同センターは、関越自動車道の所沢インターチェンジまで車で10分、公共交通機関でも東武東上線・鶴瀬駅から車で約15分の好立地にある。

地上3階建て、延べ床面積7万2000?の大型センターだが、21日現在で東京ドーム1個分に相当する約4万5000?が焼失してしまった。

● 土地代を含め約200億円を投資

 同センターはアスクルの全国に7つある物流拠点のうち、横浜などと並ぶ中核施設だ。

2013年に稼働、アスクルは土地代も含めて約200億円を投じた。

在庫は約7万品目を数え、首都圏だけでなく関東広域に出荷する。

売り上げの拡大に伴い、失火前にはコンベアの増設も検討されていた。

 記者は失火直前の2月上旬に、同センターに取材に訪れていた。

1階から3階までは総延長8.5kmにも及ぶコンベアが張り巡らされ、次から次へと荷物が流れてくる。

 驚いたのが、多種多様な製品を平然と、そして見事に仕分けしていくことだ。

同センターでは法人向けのオフィス事務用品と同時に、食品や日用品など個人向けの通販商品も扱う。

アスクルは2012年に個人向けの通販「LOHACO」(ロハコ)を立ち上げ、現在では売上高が約500億円に手が届くところまできた。

LOHACO事業の成長は、こうした高度な物流機能が支えている。

 ロジパーク首都圏では、「商品ピッキングの完全自動化」にも挑戦している。

他社の物流センターでも、メーカーからの納入品を自動的に在庫として収納したり、それをピッキングして作業員の元に届ける「自動倉庫型GTP」と呼ばれる高度なシステムを導入しているところはある。

だが、それでもピッキングなどには、人手がゼロになることはない。

 アスクルの場合、このGTPに加え、高精度のカメラなどを使用した画像認識技術と最新のロボット技術を組み合わせて、「アーム型ロボット」に細かなピッキング作業を任せることに挑戦している。

ロジパーク首都圏は”最先端の実験場”の位置づけで、その結果を見ながら、横浜のセンターにアーム型ロボットを実践配置してきた。

 能力は「熟練した作業者」にはまだ及ばないものの、完全自動化に向けてメドが経ちつつある状況だ。

同社では将来的な可能性として、ピッキングを担う作業員が、ロボットの簡単な操縦やメンテナンス作業など、「より次世代の仕事」を担うようなロードマップも念頭に置いており、極めて先進的な戦略が張り巡らされていた。

 だが、最先端のセンターは「内部からの火災」には脆かったことになる。

16日、1階の段ボール置き場付近で発生したとみられる火災時、倉庫内では400人以上の従業員が作業していたというが、当初は「最新設備なのだから、初期消火が的確になされる」と思った筈だ。

だが、在庫商品の多い2、3階へと延焼した。

 コピー用紙などの可燃物が多いことや、外壁には窓口などの開口部分が少ないこともあり、消火活動は難航を極めた。

19日には倉庫内のスプレー缶への引火が原因とみられる二度の爆発が発生、大半を焼損してしまった。

現在は横浜の物流センターなどで機能を代替しており、法人向けのネット通販は通常通り配送しているが、個人向けのLOHACOでは一部地域で最大2日程度の配送の遅れが生じている。

◆ BCPには念を入れていたが・・

 決して自動化だけに邁進していたわけではない。

2011年に起きた東日本大震災で仙台の物流センターや本社が被災した教訓を生かし、停電時にも連続で21時間発電が可能な自家発電設備を導入。

地震などの発生時には既存の別の物流センターの機能をカバーしたり、本社機能の移転にも対応できるようにするなど、BCP(事業継続計画)には念を入れていた。

 「防火シャッター設置などの設備面に加え、避難訓練などについても、法令に基づいて実施していた」(同社)。

「ロジパーク」という言葉通り、作業員の無期雇用や健康に配慮した食事提供、センターの壁面緑化にも率先して取り組んでいた。

 それでも事故は防げなかった。

在庫品も含め、ロジパーク首都圏の大半が焼損してしまったこともあり、今回の損失は数十億円規模に上りそうだ。

損失については一定程度、火災保険でカバーされるものの、補てんされる範囲や金額については鎮火後の現場確認や調査終了後になる。

そうした状況を受け、同社は3月16日に予定していた2017年5月期第3四半期の決算発表を延期した。

 最先端のセンターのどこに死角があったのか。

そもそも大型倉庫を作るにあたって、規制当局の対応が適切だったかどうかも争点となる。

詳細は鎮火後の検証を待たなければならないが、その内容はアスクルだけでなく、物流業界全体にとっても大きな影響を与えそうだ。

      ◇◇◇

福井 純 (ふくい じゅん)

東洋経済 記者

金融、食品、倉庫などを担当。

証券部編集委員

週刊東洋経済」編集部、「会社四季報プロ500」「株式ウイークリー」「オール投資」編集長、「東洋経済オンライン」編集部長を経て現職。

国際テクニカルアナリスト連盟認定テクニカルアナリスト(CFTe)、日本テクニカルアナリスト協会理事

記事一覧 http://toyokeizai.net/list/author/%E7%A6%8F%E4%BA%95_%E7%B4%94