『わが忘れなば』小沢信男

 うれしい本が飛びこんできました。深謝であります。

 『わが忘れなば』小沢信男(一九六五年十一月十六日晶文社)装幀平野甲賀。小沢さんの第一創作集で最初の単著です。この本に収録されている作品のうち五篇は、この十年後に出た『東京の人に送る恋文』(一九七五年晶文社)にも再録されたのでそちらで読むことができたのですが、残りの六篇も今回読めることになりうれしい限りです。なぜかこれまでこの本に縁がなかったのですね。

 「あとがき」にそれぞれの初出を記したあと、

≪以上のほかにも作品がないではないが、この十一篇を書くのに十四年かかっております。十四ヶ月の誤植ではないので、これはつまり私が月日をゼイタクに使ったのだと思うのですが、あいにく「ゼイタクは敵だ」というスローガンをきいて育ったもので、なんとなくうしろめたい。はずかしい。

 ともあれ、このスロー・ペースに気長につきあってくださった新日本文学会の方々、そしてこの本を作ってくださる晶文社の方々が、じつにありがたく思われます。それから活字を拾ってならべて下さった方々や、製本屋さんや、小売屋さんや、なにやかや、本来なら菓子折もってずうっと廻りたい気分ですが、とても廻りきれないので一切省略。

 終りに、かさねて申しますが、これは私の第一創作集です。というのはつまり、第二、第三と続くぞ、という意志の表明でありまして、われながらいさましい。私のペースでゆくならば、これからもよほど長生きせねばなりますまい。≫

 と書いておられます。

 小沢さんは1927年6月の生まれですからもうすぐ90歳、あとがきを書かれたときはまさかここまでとは思っておられなかったのではないでしょうか。そして、今年に入ってからも二冊本を出しておられのですからすごいですね。